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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)1691号 判決 1977年7月22日

昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件原告 株式会社アドバンス

右代表者代表取締役 浦壁伸周

右訴訟代理人弁護士 岡田正美

昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件被告

同五二年(ワ)第一六九一号事件原告 株式会社東健

右代表者代表取締役 今野光麿

右訴訟代理人弁護士 前田茂

鈴木禧八

右昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件訴訟代理人弁護士 荒井重隆

同事件前田訴訟復代理人弁護士 柏原行雄

昭和五二年(ワ)第一六九一号事件被告 アドバンス販売株式会社

右代表者代表取締役 浦壁伸周

右訴訟代理人弁護士 岡田正美

主文

一  昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件原告株式会社アドバンスの請求を棄却する。

二  昭和五二年(ワ)第一六九一号事件被告アドバンス販売株式会社は、昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件被告兼同五二年(ワ)第一六九一号事件原告株式会社東健に対し、金一五三万円及びこれに対する昭和五二年三月四日以降完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

三  昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件被告兼同五二年(ワ)第一六九一号事件原告株式会社東健のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用中昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件原告株式会社アドバンスと同事件被告兼同五二年(ワ)第一六九一号事件原告株式会社東健との間に生じたものは全部同五一年(ワ)第六五〇四号事件原告株式会社アドバンスの負担とし、昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件被告兼同五二年(ワ)第一六九一号事件原告株式会社東健と同五二年(ワ)第一六九一号事件被告アドバンス販売株式会社との間に生じたものはこれを四分し、その一を昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件被告兼同五二年(ワ)第一六九一号事件原告株式会社東健の負担とし、その余を同五二年(ワ)一六九一号事件被告アドバンス販売株式会社の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

一  昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件について

(1)  同事件原告株式会社アドバンス

(一) 昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件被告兼同五二年(ワ)第一六九一号事件原告株式会社東健(以下単に「被告東健」という。)は、昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件原告株式会社アドバンス(以下単に「原告アドバンス」という。)に対し、金七二万円及びこれに対する昭和五一年八月一七日以降完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

(二) 訴訟費用は被告東健の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

(2)  被告東健

(一) 原告アドバンスの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告アドバンスの負担とする。

二  昭和五二年(ワ)第一六九一号事件について

(1)  被告東健

(一) 昭和五二年(ワ)第一六九一号事件被告アドバンス販売株式会社(以下単に「被告アドバンス販売」という。)は、被告東健に対し、金二〇三万円及びこれに対する昭和五二年三月四日以降完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ。

(二) 訴訟費用は被告アドバンス販売の負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

(2)  被告アドバンス販売

(一) 被告東健の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は被告東健の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一  昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件について

1  請求の原因

(一) 原告アドバンスは、医療器具等の製造を業とするものである。

(二) 原告アドバンスの姉妹会社である被告アドバンス販売(旧商号サイラックス商事株式会社)は、原告アドバンスの製造した医療器具の販売等を業とする会社であるが、被告東健に対し、電気治療器サイラックスMⅡ型を、昭和五一年二月一四日に四〇台、同月二〇日に六〇台、同月二一日に四〇台、合計一四〇台を代金一台金一万四、四〇〇円、合計金二〇一万六、〇〇〇円で売り渡した。

(三) 被告アドバンス販売は、昭和五一年七月八日原告アドバンスに対し、被告東健に対する右売掛代金中金七二万円の債権を譲渡し、同日付翌九日到達の書留内容証明郵便を以て、被告東健に対してその旨通知した。

(四) よって、原告アドバンスは、被告東健に対し、右譲受債権金七二万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和五一年八月一七日以降完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求の原因に対する答弁

(一) 請求の原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実のうち、被告アドバンス販売が被告東健に対してサイラックスMⅡの売掛代金残額金七二万円の債権を有していたことは認めるが、右は、後記抗弁において主張する相殺により全額消滅している。

3  被告東健の抗弁

(一) 訴訟信託について

被告アドバンス販売からの原告アドバンスに対する本件売掛代金債権金七二万円の譲渡は、両者の間になんらの債権債務が存在しないにもかかわらず、原告アドバンスに訴訟を提起追行させることを目的としてされたものであるから、信託法第一一条に違反し、無効である。

(二) 相殺について

(1) 被告東健は、昭和五一年二月一二日被告アドバンス販売との間において、被告アドバンス販売よりサイラックスMⅡ型を代金一台金一万四、四〇〇円、年間五、〇〇〇台程度を支給するとの約定で販売契約を締結した。

(2) 被告東健は、右販売契約に基づき、昭和五一年三月一五日被告アドバンス販売に対し、サイラックス一〇〇台を注文した。

(3) ところが、被告アドバンス販売は、前記販売契約に違反して、被告東健に対し注文に係るサイラックスを売り渡さなかった。

(4) 被告東健は、被告アドバンス販売の右債務不履行により、次のとおりの損害を蒙った。

(イ) 被告東健は、鹿児島県職員生活協同組合からサイラックス二五〇台を受注し、昭和五一年二月末日、三月末日に各一〇〇台、四月末日に五〇台を納入すべきこととなっており、一三一台を納入したが、残りの一一九台は、被告アドバンス販売の売渡拒否のため納入できないままで終った。被告東健から同協同組合への売渡価格は一台金二万四、五〇〇円であり、被告アドバンス販売からの仕入価格は前記のとおり一台金一万四、四〇〇円であったから、一一九台の得べかりし販売利益は金一二〇万一、九〇〇円となる。

(ロ) 被告アドバナス販売から納入を受けたサイラックスのうち、一九台は、一部が作動しないものか、治療器として保証できないものであり、そのため、被告東健は、右一九台の仕入代金二七万三、六〇〇円の損害を蒙り、また、これを直接販売すれば得られたであろう直接販売価額と仕入価額の差額金三四万二、〇〇〇円(一台当り金一万八、〇〇〇円)から販売経費金六万七、五〇〇円を差し引いた金二七万四、五〇〇円の得べかりし利益を失った。

(ハ) 被告東健代表者今野光麿と経理部長田中馨は、被告アドバンス販売との間の契約に基づくサイラックスの販売のため、鹿児島県職員生活協同組合の所在地である鹿児島市に飛行機で一二、三回往復しており、その運賃だけで金五〇万円を超えている。

被告東健は、サイラックス販売のため新たに内山哲也を社員に採用したが、その募集及び教育のための費用として、少なくとも金五〇万円の費用を要した。

(5) そこで、被告東健は、被告アドバンス販売に対し、昭和五一年四月一五日付書留内容証明郵便を以て前記損害賠償金二七五万円の支払を請求したが、さらに同日付書留内容証明郵便を以て、右損害賠償金の一部を以て、被告アドバンス販売の原告に対する本件売掛代金七二万円と対当額で相殺する旨の意思表示をした。従って、本件売掛代金債権七二万円は全額消滅しているから、被告は、その後に右債権を譲り受けた原告アドバンスに対し、右相殺を以て対抗し得るものである。

4  抗弁に対する原告アドバンスの答弁

(一) 抗弁(一)の訴訟信託の主張は争う。被告東健は、被告アドバンス販売に対するサイラックス売掛代金支払のため額面金七二万円の約束手形を振り出したのであるが、その際被告東健は、誤って受取人を原告アドバンスとした。その後、右手形が支払拒絶となったため、原告アドバンスにおいて債権仮差押、本案判決による強制執行等の手続をとったのである。原告アドバンスと被告アドバンス販売とは、製造会社と販売会社の関係にある姉妹会社であって、被告アドバンス販売としては、前記手形金と合わせて本件売掛代金債権についても原告アドバンスに権利の保全及び実行をして貰うのが便宜であるため、右債権を原告アドバンスに譲渡したものであり、右事情からすれば、訴訟信託には当たらない。

(二) 抗弁(二)の相殺の主張については、

(1) (1)の販売契約締結の事実は認めるが、右契約は基本的契約であって、個別的具体的な売買契約の趣旨ではない。

(2) (3)の主張は争う。被告東健の注文したサイラックス一〇〇台についての売買契約は未だ成立しておらず、前記販売契約によっても、被告アドバンス販売が売渡の義務を負うことはない。右販売契約によれば、期日までに売買代金が支払われない恐れが被告東健に認められたときは販売を停止することができるものとされており(契約書第九条第五号)、当時被告アドバンス販売が興信所に依頼して被告東健の信用調査をしたところ、若干警戒を要する旨が指摘されたので、昭和五一年三月二一日に売り渡したものを最後に、被告東健から担保の提供等の支払保証がない限り売渡を拒絶したものである。

(3) (4)の事実は否認する。

(4) (5)の事実のうち、被告東健から被告アドバンス販売に対し、その主張のような書留内容証明郵便が到達したことは認めるが、その余の主張は争う。

二  昭和五二年(ワ)第一六九一号事件について

1  請求の原因

(一) 被告東健が被告アドバンス販売に対し、合計金二七五万円の損害賠償債権を有していることは、昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件3被告東健の抗弁(二)相殺(1)ないし(4)のとおりである。

(二) 被告東健が、被告アドバンス販売に対し、右損害賠償債権の一部を以て、本件サイラックス売掛代金七二万円とその対当額で相殺したこともまた、右3(二)(5)のとおりである。

(三) よって、被告東健は、被告アドバンス販売に対し、本件損害賠償金残額金二〇三万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和五二年三月四日以降完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  請求の原因に対する答弁

昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件における原告アドバンスの抗弁に対する答弁(二)と同一である。なお、被告東健が前記販売契約に基づき、昭和五一年三月一五日被告アドバンス販売に対し、サイラックス一〇〇台を注文した事実は認める。

第三証拠関係《省略》

理由

第一昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件について

一  請求の原因

1  請求の原因(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  同(二)の事実のうち、被告アドバンス販売がかつて被告東健に対し、原告主張のサイラックス売掛代金残額金七二万円の債権を有していたことは、当事者間に争いがなく、その余の事実は、被告東健において明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべきである。

3  請求の原因(三)の事実については、被告東健において明らかに争わないから、これを自白したものとみなすべきである。

4  右の事実によれば、原告アドバンスより被告東健に対し、本件売掛代金中金七二万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五一年八月一七日以降完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は、その理由がある。

二  被告東健の抗弁

(一)  訴訟信託について

《証拠省略》によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、被告アドバンス販売は、原告アドバンスの製造した商品を専ら販売するいわゆる販売会社であって、両社は、代表取締役を始めとする役員もほとんど同一であるほか、事務所も同一の場所にあり、資本的にも、営業上及び組織上も極めて密接な関係にある。そうして、被告アドバンスと被告東健との間の本件サイラックス取引においても、代金決済のため、被告東健から原告アドバンス宛の約束手形が振り出され、被告アドバンス販売においてこれを受領しているような事実もあり、要するに、両会社は、実質上同一会社の製造部門と営業部門と大差ない関係にあるものである。本件において、被告アドバンス販売は、前記原告アドバンス宛振り出された約束手形が支払拒絶となった関係上、本件売掛代金残債権についても、原告アドバンスの約束手形金債権と合わせて権利保全及び実現の手続をとるのが便宜と考え、これを前記のとおり原告アドバンスに譲渡したものである。以上のとおりの事実を認めることができ、右認定の事実によって考えれば、原告アドバンスと被告アドバンス販売との密接な関係及び債権譲渡に至るまでの事情、販売会社である被告アドバンス販売としては、常に原告アドバンスに対して売掛代金債務を負っているわけであり、本件債権譲渡もその決済の一環として処理することも十分予想されることを考慮すれば、未だ右債権譲渡を信託法第一一条に違反するものとまで解する必要はなく、被告東健の訴訟信託の主張は、採用できない。

(二)  相殺について

(1) 抗弁(二)(1)の被告東健と被告アドバンス販売との間の販売契約締結の点については、当事者間に争いがない。

(2) 同(2)の被告東健の被告アドバンス販売への昭和五一年三月一五日付のサイラックス一〇〇台の注文の点については、原告アドバンスにおいて明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

(3) 同(3)の事実のうち、被告アドバンス販売が被告東健に対し、前記注文に係るサイラックス一〇〇台を売り渡さなかったことは、原告アドバンスにおいて争わないところである。そこで、被告アドバンス販売が昭和五一年二月一二日付販売契約に基づいて被告東健に対し注文されたサイラックスの売渡義務を負うのか否かの点について判断する。《証拠省略》を総合すると、次の事実を認めることができる。すなわち、被告東健は、医療器械ことに家庭用低周波治療器の販売を業とするものであるが、昭和五〇年設立以来主として右治療器の一種であるホーマーイオンを取り扱って来た。しかし、翌五一年一月頃から、被告アドバンス販売との間において、原告アドバンスが製造し、被告アドバンス販売が販売している同種の治療器サイラックスMⅡを被告東健において取り扱う話が持ち上がり、両社の間で折衝が行われた。その結果、前記当事者間に争いない事実のとおり、昭和五一年二月一二日前記内容の販売契約が締結されたのであるが、その際、被告アドバンス販売としては、被告東健において責任を以て買い受けるべき月間取引義務数量を定めたいとしたのであるが、被告東健としては、前述のとおり、すでに他の種類の治療器も取り扱っていたし、主力販売地区が未だ明確となっていなかったという事情もあったので、明確な月間取引義務数量を定められることを好まず、被告アドバンス販売もこの希望を容れて、被告東健において年間五、〇〇〇台程度を販売することを目途とすることを定められた。また、代金の支払方法については、被告アドバンス販売としては、一般に現金取引としていたので、その旨被告東健に申し入れたが、被告東健としては、現金取引では困るとし、折衝した結果、毎月二〇日締切、同月末日に半額を九〇日後の支払期日の約束手形で支払い、残りの半額は翌月末日に小切手で支払うこととする旨合意された。以上のとおりの事実を認めることができ、右認定の事実によって考えれば、昭和五一年二月一二日被告アドバンス販売と被告東健との間に締結された販売契約は、両者間の継続的売買取引についての基本契約であるが、被告アドバンス販売としては、年間五、〇〇〇台前後の範囲内で、右契約で定められた条件による買取りを被告東健から申し込まれたときは、これに応ずべき義務がある趣旨のものと解するのを相当とする。《証拠判断省略》従って、被告東健からの昭和五一年三月一五日付サイラックス一〇〇台の注文に応ぜず、その後の販売契約所定の支払条件による注文にも応じない態度をとった被告アドバンス販売の行為は、被告東健に対する債務不履行を構成するものというべきである。

原告アドバンスは、販売契約によれば、期日までに売買代金が支払われない恐れが認められたときは販売を停止できる旨主張し、乙第一号証の契約書第九条には、そのような趣旨にとれないではない記載があるけれども、本件販売契約が被告東健において販売ルートを開拓した上、これにより相当長期間にわたって商品を提供販売することを予定していること前記のとおりである以上、被告アドバンス販売の一方的な恣意的認定によって被告東健への販売を停止することが許されないのは信義則上当然というべきである。客観的事実によって、被告東健の期日における売買代金決済が期待できないことが相当高度の蓋然性をもって認められる場合に限り、被告アドバンス販売の供給停止が正当づけられるものと解される。この観点からすれば、そのような事実を認めるに足りる証拠は、本件において存在しない。原告アドバンスは、甲第四号証の調査報告書を以てその根拠とするようであるけれども、右調査報告書によっても、被告東健が創立以来まだ日も浅く、十分な収益をあげるにまで至っていないので、信用程度は若干警戒を要する程度であるというにとどまり、売買代金決済不能となる相当高度の蓋然性があるということの根拠となるものではないのみならず、《証拠省略》によれば、右調査報告は、被告東健の資本金、年間売上高、決算内容等重要な点について正確さを欠き、被告アドバンス販売においても多少の労を払って調査すれば、そのことが判明したと思われるような不正確な資料であったと認められるから、いずれにしても、原告アドバンスの主張を裏づけるものとは、とうていいいえない。

(4) 次に、被告東健の損害の点について判断するのに、《証拠省略》によれば、被告東健は、被告アドバンス販売の前記債務不履行により、次のとおりの損害を蒙ったものと認められる。

(イ) 被告東健は、その主張のとおり、鹿児島県職員生活協同組合からサイラックス二五〇台を受注していたが、被告アドバンス販売の債務不履行のため、そのうち一一九台を納入できないままで終った。そのため、被告東健は、その主張のように、合計金一二〇万一、九〇〇円の得べかりし販売利益を失った。

(ロ) 被告アドバンス販売から納入されたサイラックスのうち在庫品一九台は、その後被告アドバンス販売からの取引停止により、アフターサービスが不可能となったので、販売することができなくなった(なお、その一部に不良品もあった。)。そのため、被告東健は、右一九台分の仕入代金二七万三、六〇〇円及び直接販売価額から仕入価額を控除した金額から販売経費を控除した利益として金二七万四、五〇〇円、合計金五四万八、一〇〇円の損害を蒙った。

(ハ) 被告東健は、被告アドバンス販売とのサイラックス取引が長期にわたって継続できるものと考えて、その販路開拓のため、代表者あるいは社員田中馨らを鹿児島等へ合計八、九回出張させ、あるいは社員一名を募集採用して教育する等して、その費用として、少くとも金一〇〇万円を支出した。しかしながら、右費用中には、被告東健において販売済みの、あるいは、前記逸失利益算定の根拠として考慮しているサイラックスについての販売経費となるべきものが含まれている筈であるし、また新規採用社員も、被告東健代表者の本人訊問の結果によれば、現に他の業務に従事しているものと認められるから、その募集、教育に要した費用の全額を被告アドバンス販売の本件債務不履行による損害とするのは相当でない。そこで、右金額のうち、半額の金五〇万円を以て、右債務不履行による損害と解するのを相当とする。

以上の次第で、被告東健は、被告アドバンス販売に対し、合計金二二五万円の損害賠償債権を有することとなる。

(5) 抗弁(二)(5)の事実のうち、被告東健主張のような内容の書留内容証明郵便二通が到達したことは、当事者間に争いがなく、右認定の事実によれば、被告アドバンス販売の被告東健に対する本件売掛代金債権は、相殺により、全額消滅したものというべきである。従って、被告東健は、右相殺後に本件売掛代金債権を譲り受けた原告アドバンスに対し、右相殺を以て対抗することができるわけであるから、被告東健の抗弁は、その理由がある。

第二昭和五二年(ワ)第一六九一号事件について

一  請求の原因

1  被告東健が被告アドバンス販売に対し、合計金二二五万円の損害賠償債権を取得したことは、昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件における判示中、二被告東健の抗弁(二)(1)ないし(4)のとおりである。

2  被告東健が右損害賠償債権の一部を以て、被告アドバンス販売のサイラックス売掛代金七二万円とその対当額で相殺したこともまた、前記(二)(5)のとおりである。

3  よって、被告東健の被告アドバンス販売に対する本件損害賠償金請求は、金一五三万円及びこれに対する本件反訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五二年三月四日以降完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でその理由があるが、その余は失当として棄却を免れない。

第三結論

以上の次第であるので、昭和五一年(ワ)第六五〇四号事件につき、原告アドバンスの被告東健に対する請求を棄却することとし、同五二年(ワ)第一六九一号事件につき、被告東健の被告アドバンス販売に対する請求を前記限度において認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田耕三)

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